2026年4月5日(日曜日)の中日新聞「人生」欄に掲載された、牛玉山観音寺副住職・長谷川優氏の『我が絵画世界と仏教』というコラムに共感しました。
独自の御朱印が評判となり、不動明王や観音菩薩などの墨絵作品展も開催されている長谷川副住職ですが、コラムでは数息観という呼吸法について触れた後、ご自身が絵を描くときの意識について語られていました。
その中に次のような一節があります。
「私が絵を描いているときは、呼吸に意識を向けない。ライフワークにしているライブイベントでは、15~30分かけ人前で絵を描くが、息つく暇もない。では、どこに意識が向かっているかと言えば、「線」だと思う。最初の一筆二筆は腕が動きたい方向に任せる。仮にこの線を野性的な線と呼びたい。その後は、書き順を決めていて理性的な線と、野性的な線を織り交ぜながら絵を完成させていく」
私はこの言葉に、自分が大切にしている「感性」と「思考」の関係を見る思いがしました。
感性と思考が一枚の絵を完成させる
長谷川副住職の言う「野性的な線」とは、腕が動きたい方向に任せる線です。
頭で考えて描くのではなく、感覚のままに生まれる線と言って良いでしょう。
一方、「理性的な線」とは、完成へ向かうために考えながら描く線です。
感性に任せた線も、思考によって描かれた線も、どちらも自分自身が生み出したものです。
そして、その二つを織り交ぜながら一枚の絵を完成させていく。どちらか一方だけでは作品は完成しないのだと思います。最初の一筆二筆は感性のままに。そこに思考を加え、さらに感性を働かせる。その絶妙なバランスが、素敵な作品を生み出しているのでしょう。
私はこの話を読みながら、「お任せして生きる」ということにも通じるように感じました。
私たちは思考を優先して生きている
私たちの日常は、どうしても思考中心になりがちです。失敗しないように考える。損をしないように考える。周囲にどう思われるかを考える。
年齢を重ねるにつれて経験も増え、賢くなります。上手に物事を乗り越える方法も身についていきます。それは決して悪いことではありません。むしろ、生きていく上で必要な力です。
しかし、その一方で感性を後回しにしてしまうことがあります。ふと何かを思いついても、
「気のせいだろう」「そんなことをして意味があるのだろうか」「もっとよく考えてからにしよう」そうやって心の声を見送ってしまうのです。
私自身も後になって、「あの時のひらめきに従っていたらどうなっていただろう」と思うことが少なくありません。
感性に従うことは無責任ではない
感性に従うというと、考えないことのように聞こえるかもしれません。しかし、そうではありません。
私たちには考える能力があります。だからこそ、最初の一歩を感性に任せることができるのです。
絵が最初の一筆二筆から始まるように、人生もまた最初の一歩から始まります。
その一歩を感性に任せてみる。そして歩き始めてから考える。必要があれば修正する。躓いたとしても、乗り越えるための知恵や経験を私たちは持っています。最初からすべてを計算し尽くして動こうとしても、人生は思い通りにはなりません。
予期せぬ出来事が起こり、その都度判断を重ねながら生きています。だからこそ、ときには感性に任せてみることも必要なのではないでしょうか。
小さなことから感覚を取り戻していく
とはいえ、人生を左右するような大きな決断をいきなり感覚だけで行うのは難しいでしょう。まずは小さなことから始めてみる。今日はどの道を歩こうか。どこへ出かけようか。
何を食べようか。誰に連絡してみようか。
そんな何気ない選択を、少しだけ感覚に任せてみるのです。そうしているうちに、
自分の中にあった感覚を思い出していくように思います。私たちは考えることが得意です。
だからこそ、少し苦手になってしまったかもしれない「感じること」に目を向けてみる。
無邪気な子どものように、理由を探さずにやってみる。その先に思いがけない出会いや発見があるかもしれません。
感性と思考の両方を大切にする
感性だけでもなく、思考だけでもない。感性と思考、そのどちらも大切にする。
長谷川副住職の描かれる絵が、野性的な線と理性的な線によって完成するように、私たちの人生もまた感性と思考の両方によって形づくられていくのだと思います。
まずは感性の一歩を信じてみる。そして、その後を思考が支える。そんな生き方ができたなら、いつもの日常は少し違った景色を見せてくれるかもしれません。そこには、思わず心が弾むような出来事が待っているのではないでしょうか。
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